ここからは、具体的にナイフや工具をつくっていく時には、どんなことを考えていけばよいのかということについて、今までとは視点を変えて解説します。

鋼(はがね)

ここでは、市販の鋼を工具や工作機械を用いてナイフなどの工具を加工して、それを熱処理して所定の硬さにした後に研磨仕上げして仕上げるという工程を取ることを念頭にして説明します。

JISでは「ナイフ鋼」「刃物鋼」という分類はありませんが、鋼材を製造しているメーカー(日本では「日立金属」「大同特殊鋼」などが有名)では刃物(ナイフ)に必要な基本要素、「硬さ・耐摩耗性・じん性・耐腐食性」などを具えた鋼材を刃物用の鋼として分類して製造しています。

JISでは、炭素工具鋼・ステンレス鋼・工具鋼などに分類されるのですが、メーカーの特徴を生かしてJIS鋼種ではないものがたくさん出回っています。また、外国のメーカーの鋼材も流通販売されています。(こちらに一例を示します)

材料の化学成分だけではなく、加工しやすいサイズが販売されている「市場性」や、熱処理によるトラブルが少なく、成形性や研磨のしやすさなどを含めて選定することになりますが、個人の感覚で評価される場合も多く、ここでは出来るだけ客観的にそれらの性質を紹介していこうと思います。

「刃物」といっても、ナイフや包丁のように刃先が鋭利なものから、当社「第一鋼業」の鉄鋼せん断用刃物のように刃先が直角で、「強いことが生命」というものまで広範囲におよんでいます。 ここでは、刃先が鋭利なナイフや工具を熱処理するイメージで説明していきます。

加工のしやすさを考える

市販品は通常では鋼が最も柔らかい状態の「焼なまし材」の状態で販売されています。

ミルシート(鋼材検査成績書)には、通常 「***HB」(旧表示のまま、HB***と表示されているものもあります)のようにブリネル硬さで表示されていることが多く、その値が低いほど「柔らかく」「加工しやすい」という指標になります。
おおよそ250HBを超えると加工しにくいという感じが強くなります。

日立金属の硬さ規格をみますと、炭素鋼系の「青紙」類では229以下で加工しやすい値ですが、ダイス鋼のSLDでは248以下、ステンレス系のSUS440CやATS34などは272以下、ZDP189では321以下と高級になるほど高い値になっています。 これは、熱処理後の耐摩耗性にも関係していて、鋼材に含まれる非常に硬い炭化物の種類や量や焼なましのしにくさなどがこの数字に表れてきます。これらについては個々の項目で解説します。

「ミルシート」は「鋼材の検査成績書」で、あまり一般に見ることが少ないと思いますが、ここには、サイズ・化学成分・材料の焼なまし硬さ・熱処理試験結果その他の試験結果が記録されていて、材料メーカーは必ず発行しています。 しっかりとした材料屋さんではすべてを入手して保管していますので、購入の際に一度見られるかコピー入手されることをお勧めします。

加工時には、出来るだけ仕上げ代を少なくすることで加工時間を短縮することができます。しかし、素材の表面は圧延肌であっても平滑ではありませんし、表面は脱炭などで変質しています。(脱炭をしたものを熱処理すると、割れや変形が起こりやすくなります)

脱炭とは、製造過程で表層部の炭素が失われて、焼が入らない成分に変質していることを言います。たとえば日立金属の規格で15mm厚以下の材料では0.25mm以下の脱炭量となっていますが、実績では0.1mm程度削れば正常な組織になっています。 しかし、鍛造したものでは1mm程度の変質した層が残っていることもありますので、購入する際にはそれを確認して、それを見越した材料を購入する必要があります。

熱処理による変質は、真空炉であってもソルトバスであっても、熱処理後の仕上がり肌や表面の色の違いがあっても、脱炭などの変質はほとんどありませんので、磨いて光っていれば正常組織になっていると考えていいでしょう。このために、「曲り取り」と「刃付け」「硬さ検査の圧痕の徐去」などに必要な量の取り代以外は考慮する必要は無いと考えていいでしょう。

熱処理(焼入れ)を考える

鋼材の持ち味を生かすのが熱処理ですが、どのような状態が良いのかは眼で見ただけではわかりません。 この熱処理解説を通じて、規定の硬さに入れるだけが熱処理ではないということを理解していただきたいと考えています。

それでは、どのような点に気をつけて熱処理屋さんに熱処理依頼するといいのでしょうか?

「鋼種」と少なくとも「必要な硬さ」が決まっていると所定の熱処理ができますが、すべての熱処理屋さんが注文を受けてもらえるとは限りません。 たとえば、加熱温度域や冷却の設備が対応していない場合で、焼入れ温度が1,000℃以上のものはダメとか、油冷設備がないため、必要な硬さが出ないとか、普段流れているものと大きさや形状が違いすぎる…などのケースがあります。

まず、問い合わせされることが重要です。
通常処理されていないような鋼種や仕様であれば、納期がかかったり費用がかさんだりしますので、事前に問い合わせるか、見積もりを取ってみるとよいでしょう。

当社、第一鋼業でもいろいろな設備があり、用途によって使い分けていますが、ソルトバスを使用すればカスタムナイフのような小ロット品でも小回りが利く熱処理ができます。

鋼材屋さんが「責任を持って熱処理します」・・・と言われる場合もあります。
「おまかせ」で処理してもらえるなどの便利さもありますし、私の知る限りでは設備的、技術的にも問題のある会社はないように思います。 まずこの記事の内容を読んでいただき、硬さだけでは見えない熱処理の重要ポイントを押さえて依頼することで大切な品物を最高の状態に熱処理できるでしょう。

「この鋼種は、ほかの熱処理屋さんでは熱処理ができない」というケースもあります。

不可解なことと思われるでしょうが、熱処理データはノウハウであると考える会社も多く、特殊な鋼種では流通販売経路が系列化されていることも多いために、鋼材を販売した販売店が熱処理を独占的に行ったり、メーカー・販売店などが個々に思惑を持ってユーザーの囲い込みをしていることも多いようです。

このような場合には、責任を持った熱処理をしてもらうことができると思いますので、納期や価格を含めて検討して依頼されたらいいと思います。 第一鋼業では相談もお受けしていますので、比較検討されるのもよいでしょう。 お問合わせください。

(このページは第一鋼業 野中が担当)


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